【北京=田島如生】中国政府は婚姻届を提出する際の手続きを簡素にするための制度改正に乗り出す。家族構成などを証明する書類の提出を不要にし、手続きする場所を自由に選べるようにする。若者の将来不安などで減少が続く結婚件数を押し上げ、少子化対策につなげる。
民政省が8月に「婚姻登記条例」の改正草案をまとめた。国民の意見を9月11日まで募り、年内に国務院(政府)が最終案を決定する見通しだ。同条例の改正は2003年の施行以来、初めてとなる。
現在、中国で結婚の登記をするには①日本の戸籍謄本や住民票に近い「戸口簿」②身分証明書③配偶者がおらず、相手と血族関係にないと記した署名入りの文書――の提示が必要だ。草案は①の提示を義務付ける規定を削除した。
戸口簿は家族全員の生年月日や出生場所、民族、国籍を記した冊子で政府が世帯ごとに作成する。これを入手するため、戸口(戸籍)のある出身地に帰らないといけない人もいる。両親が結婚に反対し、戸口簿を渡そうとしない事例もあるという。
草案は戸口簿がなくても結婚登記を受け付けるほか、地理的な制約もなくす。これまで結婚するカップルのどちらかの戸口のある場所の行政機関で登記する必要があった。改正により、現住所の近くなどでも手続きできるようにする。
離婚を取り消しやすくする規定も盛り込んだ。届け出日から30日以内は衝動的な離婚を防ぐ「冷静期間」と位置づけ、当事者のどちらかが望まない場合は申請を取り下げられるようになる。
この規定は民事関連の法律をまとめて体系化し、2021年1月に施行した「民法典」に盛り込んでいた。婚姻登記条例の改正を機に同条例にも明記して活用を促す。
中国では結婚件数の落ち込みが深刻だ。民政省によると、1~6月の登記件数は343万組で前年同期から12.7%減った。比較可能な19年以降、上半期としては最も少ない。新型コロナウイルス禍で移動制限が厳しかった20年1〜6月を約45万組下回った。
景気停滞による雇用不安などが影を落としたとみられる。国家統計局によると7月の16〜24歳の失業率は17.1%だった。中国で結婚時に男性が女性側に支払う結納金が高騰していることも、結婚の障害になっている。
こうした状況を踏まえ政府直轄の中華全国婦女連合会や民政省は9月、5000組、計1万人の男女を集めた合同結婚式を催す。北京を主な会場としてそれぞれの省や自治区、直轄市の会場をオンラインでつないで開催する。
習近平(シー・ジンピン)指導部は結婚の後押しによる出生数の増加をめざしてきた。16年に人口抑制のため導入した「一人っ子政策」を緩和した。21年の共産党政治局会議で「若者に婚姻や家庭の価値観の指導を強化する」と確認した。全ての夫婦に3人目の出産を認め、産児制限を事実上廃止した。
それでも中国の少子化は歯止めがかかっていない。23年の出生数は902万人と7年連続で前年を下回った。前年比で54万人減り、16年から半減した。コロナ禍に見舞われた20〜22年は前年比1〜2割の減少が続いた。
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