【シカゴ=飛田臨太郎】米民主党の全国大会は21日、3日目を迎え、副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事が指名受諾演説に臨んだ。11月の米大統領選の勝敗を決定づける激戦州「ラストベルト（さびた工業地帯）」の有権者に向け「労働者が最優先される国を作る」と訴えた。
「公立学校の先生を見くびってはいけないぞ」。中西部出身のウォルズ氏は演説で、労働者家庭に育ち、高校のアメリカンフットボール部のコーチを務めた自らの半生や不妊治療の経験、家族との絆を語った。
演説の前には、当時のアメフト部の教え子が演台に勢ぞろいした。「雪かきをしてくれるような、私たちの近所の人が副大統領候補になりました」と話し、ウォルズ氏の庶民的な親しみやすさを印象づけた。
「減税し、薬価を下げ、住宅を購入しやすくする」
中西部のミシガン、ウィスコンシンと東部ペンシルベニアのラストベルト3州には製造業が集積している。ミシガンとウィスコンシンの白人製造業労働者の割合は全米平均より7〜8ポイント高い。
女性で黒人にルーツを持つ大統領候補のハリス副大統領は西部カリフォルニア州出身。高学歴かつ検事の経歴を持つ。中西部の労働者はハリス氏を「エリートの象徴的存在」と捉える傾向がある。民主党はウォルズ氏にハリス氏を補う役割を期待する。
ウォルズ氏は演説で「減税し、薬価を下げ、住宅を購入しやすくする」と力説した。労働者や中間層を意識して「ハリス氏とともにあなたが望む生活を送る自由のために戦う」と語りかけた。
共和党の大統領候補、トランプ前大統領の政策について、自ら広めた「奇妙だ（weird）」という言葉を使い「もちろん奇妙だ。だが間違っており、危険でもある」と批判した。
トランプ氏もラストベルトの白人労働者への支持拡大を狙い、中西部オハイオ州出身のJ・D・バンス上院議員を副大統領候補に選んだ。ただ、同氏はシリコンバレーで投資家として財を成した。ウォルズ氏はバンス氏を「中西部ではなくシリコンの象徴」とやゆする。
米大統領選では「一緒にビールを飲みたい候補は誰か」という候補者の人間的な魅力も重視される。
現時点で世論はウォルズ氏に好意的だ。米ABCテレビが8月中旬に実施した世論調査で「好感が持てる」と答えた人は37.6%と、そうでない人を5ポイントほど上回った。
一方、バンス氏は「好感が持てない」と答えた人が42.4%と、「持てる」と答えた人より9ポイントほど高かった。過去にハリス氏らを「子供のいない猫好き女（childless cat ladies）」と呼んだ発言などが掘り起こされ、無党派層から敬遠された。
ウォルズ氏の知事としての政策はリベラル色が強い。公立学校の給食の原則無償化や労働者の有給休暇拡大に取り組んだ。ハリス氏の政策観と似ている部分が多く、共和党は「史上最も左派的な正副大統領候補」と批判する。
ウォルズ氏の軍歴を巡る経緯も共和の攻撃材料だ。陸軍州兵として20年以上従事していたが、イラク派遣を目前にして退役した。ウォルズ氏は米連邦議会下院選に出馬するためと説明しているものの、バンス氏らは「部隊を見捨てた」などと非難している。
「点を取られたが、攻撃しているのは我々だ」
ラストベルトの勝敗は大統領選の命運を決めてきた。トランプ氏は2016年の大統領選でラストベルトの3州を制して、大統領の座を射止めた。20年は民主のバイデン大統領が3州を奪還し、トランプ氏を破った。
米大統領選は有権者が候補者に直接投票するのではなく、大統領に投票する「選挙人」を各州ごとに選ぶ間接選挙制を採用する。全米50州と首都ワシントンに割り当てられた計538人の選挙人の数を争い、過半数の270人を獲得した候補が当選者になる。
多くの州は民主、共和のいずれかがほぼ確実に勝利する「青い州」と「赤い州」に分かれており、7つの激戦州の計93人の選挙人をいかに多く獲得できるかが勝敗に直結する。激戦州の選挙人のうちラストベルト3州が44人を占め、両陣営が特に力を入れている。
ウォルズ氏は選挙戦をアメフトに例え「（最終の）第4クオーターだ。点を取られたが、ボールを持って攻撃しているのは我々だ」と強調した。最後はハリス氏との集会で定番となった「戦えば、勝利する！」と連呼して演説を締めくくった。
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