ロシアの通貨ルーブルが27日の外国為替市場で下落し、2022年2月にロシアがウクライナ侵略を開始した直後(22年3月)以来の安値圏となった。11月の米国大統領選でトランプ前大統領が当選し原油の先安観が出ていることや米国による金融制裁などが響いているとみられる。ルーブル安でロシアのインフレが一段と加速する可能性がある。
トランプ氏再選、金融制裁のダブルパンチか
英LSEGによると、対ドルで1ドル=約114ルーブルで推移している。足元では24年11月中旬以降、通貨安が加速していた。
複合的な要因でルーブル安が進んだとみられる。11月5日に投開票された米大統領選でトランプ前大統領が再選を決めた。トランプ氏の掲げるエネルギー政策では米国の原油や天然ガスの生産を拡大する方針だ。「米国の次期政権の政策でロシアの資源収入が下落する連想が働いた」(ロシアの独立系メディア)との見方が出ている。
バイデン政権がウクライナでの早期停戦を掲げるトランプ氏の就任前に対ロ制裁を強めていることも影響しているとみられる。米財務省は21日、ロシアの大手銀行ガスプロムバンクなど複数の金融機関を新たに制裁対象に加えると発表した。ロシア中央銀行の幹部ら15人も加えた。
ルーブル安は自国通貨建ての輸出による歳入を押し上げる効果がある。ロシアのシルアノフ財務相は26日、「現在のルーブルの為替レートは輸出企業にとって非常に有利だ」と発言した。
だが、輸入企業にとっては調達費用などの増加につながり、国内のインフレを一段と加速させる要因となる。
ロシアのインフレ率は24年7〜9月で8.9%と四半期ベースで22年10〜12月以来の高水準となった。10月のインフレ率は前年同月比8.5%とやや鈍化したものの、高水準で推移している。
インフレ対応の利上げ、軍需産業から不満
ウクライナ侵略の長期化でロシア軍の人員不足は深刻になっており、軍は報酬などを充実させて志願兵である契約軍人の採用を急いでいる。人件費の増加が企業のコスト増と価格転嫁につながりインフレを促進している。
ロシア中銀は想定を上回るインフレが続いているとして、政策金利を引き上げてインフレを抑制する方針だ。10月の金融政策決定会合では政策金利を年21%に引き上げた。現在の政策金利は侵略開始直後の水準(20%)を上回っている。
ロシア中銀は政策金利を段階的に引き上げており、軍需産業などからは批判の声も上がっている。軍需産業の大半を所轄する国策企業ロステフのチェメゾフ社長は金利上昇のために製造にかかるコストが上昇しており「採算が合わなくなっている」と中銀の方針を批判している。
政権に近い筋からもロシア中銀を批判する声がでており、今後の中銀の独立性を疑問視する見方が強まっていることもルーブル安につながっている可能性がある。
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