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<新型コロナウイルスのパンデミックを経て整備が進む「遠隔医療」。画面越しの診察は、医療機関と患者双方にメリットがある>

パンデミックへの対応からパンデミックとの共生へ──私たちはそんな変化をリアルタイムで経験している。働き方も変わった。リモートワークやオンライン会議が普及し、アメリカでは多くの新築住宅にホームオフィスが設けられるようになった。

変化の波は医療にも及んでいる。遠隔医療は以前からあったが利用は限定的だった。2019年以前は医師不足の過疎地などを除けば、遠隔医療にはメディケア(高齢者医療保険制度)が適用されなかった。

だがパンデミックで医療ニーズが急増する一方で、対面での接触を避ける動きが広がり、遠隔医療の普及が加速度的に進む状況になった。

それから3年。パンデミックの最中の危機感は薄れたものの、遠隔医療は医療提供の標準的な新手法として定着しつつある。

遠隔医療は離れた場所にいる医師と患者をオンラインで結んで提供される医療で、患者にとっては自宅にいながらにして医療サービスを受けられるメリットがある。

もう1つのメリットはコミュニケーションの取りやすさだ。患者はウェブサイトにアクセスするかアプリをダウンロードしてネット経由でクリニックに連絡を取る。気になる症状や治療の要望、既往症などを事前に伝えておけば、医師は忙殺されずスムーズに診察の段階に進める。

クリニック側にも利便性がある。アプリで予約のリマインダーや受け付け手続き、問診票の回収チェッックなどの事務作業を自動的に処理できる。自動音声応答システムを導入すれば、スタッフが電話で患者に応対せずに済み、患者側もアプリの操作手順に苦戦することなく、気になることを聞いて不安を解消できる。

高画質映像や大容量データの伝送が可能になり、今や多くの医療行為はリモートで行える。遠隔医療の導入は医師の働き方改革にもつながる TOM WERNER/GETTY IMAGES

加えて、医療機関側は患者の容体を遠隔でモニターできる。

手術などの治療後には一定期間、病状が軽快しているか、副反応が出ていないかなど経過観察が必要な場合がある。これを医療機関で行うと、資金とコストがかかる。可能な場合は患者が自宅で療養し、医師が遠隔でモニターする方法を取れば、入院患者を減らせる上、容体の急変に医師が即座に気付いて対応できる。

高齢化の進展で普及が急務に

疾患によっては対面での診察や検査が必要になるが、医師が日常的に行っている医療行為の多くはパソコンやスマートフォンの画面越しに遠隔で行うことが可能だ。医師は手が空いたときにいつでも患者と連絡を取って診察を行い、場合によっては薬を処方するなど治療も行える。

スマートウォッチなどウエアラブル機器の進化で人々の健康意識が高まり、自分の体の状態を数値で把握し、かかりつけ医にデータを共有する人が増えた。これにより医師と患者の関係は大幅に改善され、より治療をしやすい早期の段階で医療的介入を行えるようになった。

医療従事者のオーバーワークとそれによる燃え尽き症候群は今や社会問題となっている。遠隔医療、もしくは遠隔医療と対面診療の組み合わせは医師の働き方改革にもつながり、医療の未来を切り開くと言っても過言ではない。だが、そのためには解決すべき課題がいくつかある。

その1つは個人情報の保護。対面診療なら患者の情報が外部に漏れる心配はまずない。だがポータルやサードパーティーのハードとソフトの利用に加え、ネット経由での患者と医師のやりとりが増えれば、データが盗まれ拡散されるリスクは劇的に増える。これは放置できない問題だ。

第2の課題は医療保険の適用である。アメリカの多くの州には既に保険会社に遠隔医療の適用を義務付ける法律があるが、今はまだ対面診療と同等にはカバーされていない。

さらに情報格差の解消も必要だ。遠隔医療の利用にはスマホやウエアラブル機器、ブロードバンド接続などのネット環境が求められる。こうした技術を利用できないために一部の地域や患者が取り残されることがあってはならない。

遠隔医療の普及を加速させたのは新型コロナウイルスのパンデミックだ。公衆衛生上の危機が収まり、人々が以前ほど対面での接触を回避しなくなれば、遠隔医療の導入を急ぐ医療機関は減るかもしれない。

遠隔医療は将来的には確実に普及するだろうが、できるだけ速く普及させる必要があることを忘れてはならない。アメリカでは7100万人超のベビーブーム世代が既に退職したかその年齢に迫りつつある。つまり新たなパンデミックが吹き荒れなくとも、医療ニーズが激増する状況にある、ということだ。

できるだけ早く遠隔医療の課題を解決し、より優れたアプリを開発すること。それによって社会全体が大きな恩恵を受ける。

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