多くの観光客が行き交う熊本城の空中回廊=熊本市中央区で2024年6月1日午後1時15分、中村敦茂撮影

 2016年の熊本地震で被災した熊本城(熊本市中央区)に設けられ、地上6メートル前後を通ることから「空中回廊」と呼ばれる特別見学通路が、6月で運用5年目に入った。ここを歩けば「最強の城」とされる熊本城の見どころや魅力を満喫できるとあって、多くの観光客らに利用されており、市が掲げる「見せる復興」の足元を支えている。

 6月初めの週末。空中回廊に家族連れや海外の団体客らの人波が続いていた。天守閣をバックに記念撮影したり、ガイドの説明に耳を傾けたりしながら通り過ぎていく。夫婦旅行で訪れ、通路を渡り終えた愛知県豊田市の会社員(49)は「城の壊れた様子や修理の状況は逆に今しか見られない。工事現場から離れた通路で見学できるのも安心でした」と満足げに話した。

 空中回廊の運用が始まったのは20年6月1日。長く続く復旧工事と観光を両立しようと、熊本市が約17億円をかけ整備した。天守閣の南側を、遺構や石垣を避けて結ぶルートは全長約350メートル。通路の高さは地上から5~7メートル。幅4メートルの床面には県産のヒノキ材が敷かれ、景観にも配慮されている。

空中回廊から眺めた数寄屋丸二階御広間。石垣の一部は崩れ、建物のひびやゆがみも確認できる=熊本市中央区で2024年6月1日午後0時2分、中村敦茂撮影

 入り口(南口)から通路に上がると、まず見えてくるのが「数奇屋丸二階御広間(すきやまるにかいおんひろま)」だ。江戸時代に茶会などに使われたとみられる建物で、1989年に復元された。だが土台の石垣の一部は崩れたままで、建物のゆがみやひびも確認することができた。最大震度7のすさまじい威力が伝わってくる。

空中回廊から眺めた、通路が複雑に折れ曲がる連続枡形=熊本市中央区で2024年6月1日午後0時16分、中村敦茂撮影

 少し歩くと天守閣前に出る。21年に完全復旧した美しい姿を正面から望むことができる、絶好の撮影スポットだ。さらに進むと、攻め手を阻むため何度も折れ曲がった通路「連続枡形(ますがた)」、傾斜が異なる2種類の石垣が連なる「二様(によう)の石垣」など見どころが続く。連続枡形の曲がり具合が一目瞭然だったり、「武者返し」といわれる石垣が間近だったりするのは、高所から眺める“空中散歩”ならではだ。

空中回廊から見える、国の重要文化財の櫓(やぐら)が並ぶ東竹の丸の櫓群=熊本市中央区で2024年6月1日午後0時23分、中村敦茂撮影

 熊本城の有料エリアは地震のため17、18年度は立ち入りができなかった。しかし19年度から徐々に再開し、23年度の来場者は被災前の約8割の135万人まで回復した。熊本城総合事務所の担当者は「特別見学通路と天守閣の復旧が大きな要素」と分析する。空中回廊は今後も20年程度使われ、息長く復興に貢献する予定だ。【中村敦茂】

熊本城の被災と復旧

空中回廊から見える、傾斜の違う石垣が連なる「二様の石垣」=熊本市中央区で2024年6月1日午後0時18分、中村敦茂撮影

 1607年に築城された熊本城は、熊本地震で重要文化財13棟、再建建造物20棟が損壊、石垣も全体の約1割が崩落するなど全域的被害を受けた。熊本市が復旧を進めており、2021年1月に重要文化財の第1号として長塀が復旧、同年3月には天守閣(再建建造物)が完全復旧を果たした。すべてが復旧完了するのは52年度の見通し。入園料は高校生以上800円▽小・中学生300円▽未就学児無料。

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