M―1をめざし、地域の祭りで漫才を披露する――。ベストセラー青春小説「成瀬は天下を取りにいく」を地で行くような漫才コンビが、桑名北高校(三重県桑名市)の野球部にいる。

 「カイリと」「リュウで」「かいりゅうです」。漫才はそんな掛け合いで始まる。

 かいりゅうの2人は野球部2年の出原浬(かいり)さんと米川龍(りゅう)さん。

 「お笑いやらへんか」

 コンビ結成は、昨春の高校入学後のこと。後から野球部に入った米川さんから声をかけたという。

 揖斐川に近い田園地帯にある桑名北。米川さんは入学後、運動部をいくつか回り、最も部員同士が仲良く楽しそうだった野球部を選んだ。

 「親の方針で水泳などいろいろなスポーツをやってきたけど、中学では1種目に決められなかった」。中学の頃から、テレビやYouTubeで流れるお笑いの世界に引かれ、将来は大勢の観客の前に立ちたいと思っていた。

 一方、誘われた側の出原さんは小学生で野球を始め、中学では遊撃手として野球に打ち込んだ。

 「お笑いにはあまり興味がなかったが、目立つのは好き。まあおもろいかなと」。野球の練習後、2人で少しずつコントのまねごとを始めた。

ほろ苦いだけのデビューを経て・・・

 昨年9月、学校にも近い地区のお祭りステージの出演に応募してみた。

 「かいりゅう」の初舞台。「アラジンと魔法のランプ」のネタを考えて2日間ほど練習した。約100人を前に披露した。

 ぱち、ぱちぱち……。拍手はまばら。同じ舞台に立ったダンス部が大声援と拍手を受けたのに比べると、「ほろ苦いだけのデビューだった」と2人はふりかえる。

 それでも2カ月後の11月には学校の文化祭へ。筋書きを考えた米川さんがアイスクリームを食い逃げする「ボケ」の容疑者、「ツッコミ」の出原さんが追及する警察官役に。

 今度はダンス部に迫る拍手を受けて、手応えをつかんだ。「かっこいい」との声をかけてもらい、「やったぜという感じ」と米川さん。

 肝心の野球部では出原さんが内野の控え、米川さんは外野の控えだ。3年生と2年生が6人ずつ、1年生が5人の計17人の小所帯だ。夏の三重大会に向けて練習が続く。

 「試合ではジョークをとばし合って、ベンチを盛り上げてくれる」と主将の藤本大雅さん(3年)。チームの雰囲気を2人がもり立てている。

監督の思いと「かいりゅう」の夢

 指導する就任2年目の東谷晃希(こうき)監督(28)は、母校の松阪高校が2012年夏の甲子園に出場した時、1年生部員だった。先輩らのプレーをアルプススタンドからまぶしく見つめた。主将となった3年生の夏は、三重大会8強まで進んだ。

 「選手たちに大舞台をめざしてほしいのは当然。でも、大切なのは野球を通じて自ら考え、動く力を養うことです」

 そう語り、部員たちを見守る。同時に、コンビの2人には野球をやり遂げた上で、好きな道に進んでほしいと願う。

 「かいりゅう」には夢がある。来年の3年の夏まで野球を全うした後、軸足をお笑いに移して、漫才コンテスト「M―1グランプリ」に出場することだ。卒業後は、2人で吉本興業の芸人養成所への「進学」も視野に入れる。

 6月初め、練習の合間に、グラウンドの脇でコントを披露する2人の姿があった。笑いこける部員たち。

 「最高の相棒が見つかったのは、野球があったからこそ。ベンチでも笑わせるぜ」(本井宏人)

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