男子走幅跳の橋岡優輝(25、富士通)が6月29日の陸上競技日本選手権(新潟)に7m95(追い風2.4mで参考記録)で優勝。すでにパリ五輪参加標準記録の8m27を突破していたため、2大会連続となる五輪代表に内定した。2位の津波響樹(26、大塚製薬)は7m90だった。記録もそうだが、橋岡自身は「内容がひどかった」と反省する。パリ五輪でメダルを目指す橋岡にとって課題が山積みだが、最後の1本で良い兆しも見えた。
前半3回は「別人」というほど本人は不満
3回目までの試技は7m87、7m95、7m83。8mに届かなかったが、踏切板から前に出てしまうファウルにはならず、安定した助走ができていたように見えた。だが実際には、橋岡がやりたい跳躍ができていなかった。「今の僕からしたら本当に別人。足も遅かった。ジョグしているな、というくらいの感覚でした」4回目以降の後半3回は、7m54、7m60、ファウルと記録はさらに下がった。後半3回の試技内容については後述するが、「日本選手権ではある程度良い感覚を得ておきたい」と、5月に話していた部分はやりとげることができなかった。
橋岡は22年のシーズン後に、同学年のサニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)もトレーニングを行うタンブルウィードTCで、短距離を中心に幅広い種目の指導ができるレイナ・レイダー氏のコーチを受け始めた。「ジョグ」という言葉は、レイダー氏が橋岡の助走を見て言った言葉だった。
23年はスピードアップした助走を踏み切りにつなげることができず、橋岡としては低迷した。世界陸上ブダペスト代表にはなったが、世界大会で初めて予選落ち。「ブダペストには行ったんですが、試合には出ていません」
しかし今季は3月に8m28(今季世界8位記録)と標準記録を突破。5月の木南記念とゴールデングランプリ(以下GGP)でも、ファウルながら良い感触の試技はできた。だがイタリア合宿中のタンブルウィードTCチームと合流後に、「ケガとは言えませんが、体のバランスを崩したりして上手く練習を積めなくて、それを引きずってしまいました」という状態に。日本選手権は「自分自身の調子、コンディションも良くなかったのもありますが、前半が良くなさすぎて、自分でも言葉を失うほどでした」という内容だった。
パリ五輪へ残り1か月で立て直す
しかし、悪い内容ばかりではなかった。「(4回目以降の)後半になってやっと体が反応してきてくれました。その分走れてきて、助走距離が(前半と変わって)踏切板に全然合わなくなってしまいました」
助走スピードを上げることで、橋岡の場合は助走距離が短くなる。以前の走り方が地面からの反発重視だったのに対し、新しい走り方はピッチを速くする要素が強いからだ。踏切板に届かず4回目が7m54、5回目は7m60と記録は下げたが、助走の内容は少しずつ上向いた。
「4、5回目の記録はあまり気にしていませんでした。6回目はファウルになりましたが、最低限の最低限くらいの助走ができました」試合直後なので橋岡のコメントは「クソみたいな試合をしてしまった」と自身への憤りを感じさせるものだったが、日本選手権の最後の1本で今後、やるべきことが見えてきた。「1か月前でこれはやばい。残り1か月は忙しくなる」と自身に厳しい言葉を並べたが、「でも1か月あればなんとかなるだろう、と思いますし、本戦になれば気合いも入る」と前を向いた。
橋岡の言葉は強がりには聞こえない。過去の世界大会では18年世界ジュニア(現U20世界陸上)優勝、19年世界陸上ドーハ8位、21年東京五輪6位、22年世界陸上オレゴン10位と国際大会で実績を残し続けてきた。
「最後は気持ちかな、と思います。跳躍練習でもかなり良い感じでできていますし、GGPでも実戦の中である程度足が速くなった助走はできたので。その噛み合いは最後、本番になってここ1本という緊張感、プレッシャーの中であれば勝手にはまってくる」橋岡が持っている勝負強さが発揮されれば、今の状態を一気に好転させられる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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