(17日、第106回全国高校野球選手権大阪大会2回戦 枚方津田2―7寝屋川)

 投球が大きくそれる。枚方津田は一回、先頭打者から4連続四球を与え、この回で5点を奪われた。その後も制球が乱れるたびに、東湧悟捕手(3年)は飛びついて捕球した後、大きくうなずいた。「気にすんな」。投手にそう伝えるために。

 もともと高校では野球をやらないつもりだった。でも今、またマスクをかぶっている。

 小学生から野球を始め、中学時代は伝統あるシニアのチームでプレー。レギュラーとして活躍したが競争は激しく、自分には合わなかった。

 もうやめよう。そう思い、大阪府立の高校を受験した。野球部は甲子園に出たことはないし、上位に進出するわけでもなかった。

 入学すると、荒野博司監督に「野球を楽しい思い出で締めくくらんか」と何度も誘われた。

 一度だけ……。そう言い聞かせて、体験入部に行ってみた。出会った先輩たちは優しく、何より楽しそうに野球をしていた。

 「ここなら、最後を楽しい思い出にできるかもしれない」と感じた。

 知っている同級生はいない。最初はキャッチボールする相手もいなかったけど、打ち解けるのに時間はかからなかった。

 同級生の8人はみんなユーモアがあり、子どもっぽいところも。互いにふざけ合える。

 結果にとらわれると、しんどい。ただ、もちろん勝ちたい。昨夏は何度も後逸した反省から、みんなが休憩している間も、ブロッキングやキャッチングの練習を繰り返した。

 京セラドームでの初戦とこの試合で一度も後逸せず、暴投を止められなかったのは一度だけ。練習の成果は出せた。

 点差が開いても誰も下を向かず、ピンチの場面でマウンドに集まれば顔を見合って笑い合う。最後まで「いつもの枚方津田」を貫き通せた。

 試合後、東捕手の目に涙はなかった。でも最後、監督や仲間に一言伝えようとすると、思いがこみ上げてきた。

 「最後まですごい楽しかったのは、みんなのおかげ。本当にありがとう」。何度も目元をぬぐって、感謝を伝えた。(西晃奈)

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