(25日、第106回全国高校野球選手権大分大会準決勝 大分舞鶴5―4大分)

 1点を追う九回裏2死、打席の大分・八波(やつなみ)優貴選手(3年)の脳裏には父聡さん(42)が浮かんだ。「打席に入ったら気持ちだけは負けないように」。いつものように語りかける父。気合を入れ直し、バットを思い切り振り抜いた――。

 今大会は打撃を誇った大分打線の1番打者として突破口を開いてきた。準々決勝まで11打数7安打。さらに50メートルを5秒台で走る「韋駄天(いだてん)」として4盗塁を記録し、相手の守備を翻弄(ほんろう)してきた。

 父もそうだった。1999年の福岡大会に柳川の2番打者として出場。好機を作って足で広げた。そんな高校野球の「先輩」はいつも練習を見守り、自身の経験を息子に言葉で伝えてきた。

 この試合、最初の打席で安打を放って先制の起点を作った。主軸の安打も絡めて初回4得点。しかし、試合が進むにつれて大分舞鶴が底力を見せ、八回に勝ち越された。

 最後の打席で打った球は、三塁手がさばいてアウト。ヘッドスライディングの土煙の中でしばらく突っ伏した。「甲子園しか見ていない」と戦った最後の夏が終わった。

 八波選手は「(父を)経験豊かな一人の野球人として、言葉を素直に受け止めてきた」と涙を浮かべた。そのことを聞いた聡さんは、泥だらけの息子の横顔に「よく頑張った」と大きな声をかけ、こみ上げる涙をこらえた。(神崎卓征)

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