課題は後ろ向きに回転する技

キレのある回転力と正確な入水を持ち味に、2022年の世界選手権での銀メダル獲得など、14歳で出場した東京オリンピック以降、実績を積み上げてきた玉井選手。

目標とするオリンピックでのメダル獲得へ、課題としてきたのが後ろ向きに回転する技でした。

特に、後ろ向きに踏み切って3回転半回る207B、それに前向きで踏み切って後ろに3回転半回る307Cという、難度の高い2つの技の完成度に不安を抱えてきました。

後ろ向きに踏み切って3回転半回る『207B』

玉井陸斗 選手
「後ろ向きに回るので、景色があまり見えない。その中で自分の感覚がいちばん大事になってくるが、試合でうまくいかないことが多かった。この苦手意識をなくして技を決めきることがメダルに近づくことになる」

滞空時間を長くするための踏み切りの改善や、空中感覚を養うトランポリンを使ったトレーニングなど、技の安定感を高める練習を重ね「練習でもうまくいく本数が増えてきた」と自信をつけていきました。

馬淵崇英コーチも、その実力に太鼓判を押してパリの舞台に立たせました。

馬淵崇英コーチ

「メダルを目指さなくても手が届く位置に到達している。挑戦ではなく、平常心を持ってやればメダルは取れるという話を陸斗にはしてきた。そうすればプレッシャーも感じることなくやれる」

決勝 苦手な技で高得点

そして日本飛び込み界初のメダル獲得に挑んだ決勝。

2回目の演技

玉井選手は2回目の演技。
「流れを作るうえでも重きを置いていた」と、苦手だった『207B』で、キレのある回転からきれいに入水を決め、95.40の高得点をマークしました。

4回目の演技

重要な局面を確実に決め「ほかの演技もよくなっていった」と流れをつかむと、3回目と4回目の飛び込みもミスなく高得点をマークし、トップと僅差の2位につけました。

もう1つの苦手な技で入水に乱れ

しかし、もう1つの課題だった『307C』。

5回目の演技で繰り出すと「苦手意識がある分、“力が入ってしまわないよう”とか、“決めきれるのか”とか、いろんなことを考えて飛んでしまった」と、入水が乱れて大きく水しぶきが上がってしまいました。

得点は39.10。得点を伸ばせず、3位に順位を落とします。

気持ちを切り替えて

ただ、馬淵コーチは慌ててはいませんでした。
「飛び込みは何があるかわからない。自分自身を信じて、最後の得意の技を決めれば挽回できる」と励まし、玉井選手も「心が揺れてしまうところもあったが、ここで終わるようでは、これまでが無になってしまう」と気持ちを切り替えました。

最後は得意技で最高得点

最後の技は『5255B』。
後ろ向きに踏み切り2回転半ひねりながら2回転半回転する玉井選手の持ち味を生かした得意技です。

最後6回目の演技

「自分のやってきたことを信じて最後は飛ぶ」

その思いをのせた飛び込みは、水しぶきをほとんど上げることなく静かに水の中へと消えていきました。

得点は99.00。決勝の演技で出場した選手の中で最も高い点数をたたき出し、銀メダルをたぐり寄せました。

玉井陸斗 選手
「『307C』だけ決められなかったことが心残りだが、ほぼパーフェクトな演技ができた。ロサンゼルス大会では完璧な演技で金メダルを取りたい

馬淵崇英コーチ
「一瞬でも1位の選手を追い詰めた陸斗のレベルを見て、金メダルの可能性も見えた。残りは金メダルだけ。次のオリンピックは夢ではなく、現実に金を取るということを目標にしていけば可能になるのではないか」

銀メダルを獲得した玉井選手と馬淵コーチ

日本飛び込み界の歴史を変えた17歳。

さらなる扉を開くため、その目はすでに“世界の頂点”という次の目標に向いています。

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