渋谷区にはスタートアップ向けのオフィスが相次ぎ完成した

オフィス仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が8日発表した7月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス平均空室率は5.0%だった。前月比0.15ポイント低く、需給均衡の目安とされる5%まで下がった。事業の拡大や見直しによるオフィス移転が活発で、2023年の新築ビル供給で生じた過剰感がほぼ解消した。

都心5区の空室率は新宿を除く4区で低下した。千代田は0.13ポイント低い2.80%、中央は0.08ポイント低い5.93%、港は0.26ポイント低い6.90%、渋谷は0.29ポイント低い4.19%だった。一方、新宿は0.04ポイント高い4.40%だった。

都心の空室率は21年1月(4.82%)以来、約3年半ぶりの低水準となる。当時は新型コロナウイルス禍で出社勤務が減っていたが、好調な経済やIT(情報技術)企業を中心に採用が活発だった19〜20年初めの空室率低下の影響が残っていた。

その後、感染を避けるための在宅勤務を前提としたオフィス面積縮小の動きで空室率は急上昇。22年8~9月には6.49%に達した。新築オフィスビルの大量供給があった「2023年問題」も重なり、空室率の高止まりが続いた。

再び空室率が低下に転じたのは、感染収束とともに、企業が出社と在宅の両立を前提としたオフィスのあり方を探りはじめたのが大きい。複数の建物に分かれていた部署を集め、社員同士のコミュニケーションを活発にする狙いもある。

コロナ後の深刻な人手不足を受け、人材を呼び込むために好立地のオフィスや、設備が充実した新しいオフィスへの移転を加速している。交通アクセスが良いオフィスへの移転を、人材確保に向けた投資と捉える企業も増えている。

日本ペイントホールディングスは7月22日付で東京本社を中央区から品川駅近くの「品川シーズンテラス」(東京・港)に移転した。工場や営業拠点が近い品川地区に移ることによる連携効果を期待しているという。担当者は「駅に近いので、出張の移動時間が短くなるメリットがある」と話す。

渋谷区では新たなオフィスに入居するスタートアップが増えている。7月は東急不動産の「渋谷サクラステージ」がオープンし、IT系やコンテンツビジネスなどの企業が移転を決めた。オフィス部分の99%が埋まり、同社の担当者は「企業の強い需要を感じる」と話す。東急の「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」も竣工前に満床となった。

5区全体の平均募集賃料は前月比で55円(0.3%)高い1坪(約3.3平方メートル)当たり2万34円だった。6カ月連続で上昇し、23年2月以来、17カ月ぶりに2万円台に達した。強いオフィス需要を背景に、新築オフィスを中心に事業会社が賃料を上げる動きが続く。

本社移転の動きは今後も続くとみられる。味の素は26年春をめどに本社機能を移転する。東京都中央区の自社ビルから京橋の「TODA BUILDING」に入居する。社員同士のコミュニケーションを促すため、4か所に分散していた機能を1か所にまとめる。

同社の担当者は「(在宅勤務などの)多様な働き方は引き続き尊重しつつ、新しいアイデアが生まれることを期待している」と話す。

都内では年内に赤坂トラストタワー(東京・港)などのオフィス供給を控える。オフィス仲介大手、三幸エステート(東京・中央)の今関豊和チーフアナリストは「一時的に空室率が上昇する可能性があるが、マーケットは想定内。活発な本社移転や館内増床などが続き、オフィス市況は堅調だ」と指摘する。

(吉岡桜子)

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