「物流2024年問題」による残業規制の影響で、歩合で稼げるタクシー運転手の人気が高まっている

大手タクシー事業者が運転手の雇用を増やしている。国際自動車(東京・港)は2023年度に採用人数を前の年度比1.7倍に拡大、24年度も採用の手を緩めない。大和自動車交通(東京・江東)も足元で3割増の採用計画を立てる。トラック運転手の残業時間の上限が規制される「2024年問題」を背景に歩合で稼げるタクシー運転手の人気が高まっている。

「2024年問題によって働く時間を制限され、収入が減るトラック運転手は少なくないだろう。タクシー業界への転職を希望する運転手が当社に集まっている」。そう話すのは国際自動車の松本良一常務だ。同社は23年度、新卒と中途を合わせて前の年度比1.7倍となる977人を採用。24年度も同水準の雇用者数を維持する。

大和自動車交通は24年度、前年度比で1.3倍の採用目標を掲げる。インバウンド(訪日外国人)の急回復などで配車を増やしたいタクシー事業者は多く、運転手の確保は喫緊の課題だ。事実、都市部の大手タクシー事業者の運転手数を22年度末と23年度末で比べると、増えた会社が目立つ。

法人タクシーの運転手数は2000年代の終わりごろから減少が続いた。近年は新型コロナウイルス禍による需要減が離職に拍車をかけた。だが、全国ハイヤー・タクシー連合会によると23年度は前の年度比1.2%増の23万4653人と久しぶりに増加に転じた。地方に比べて都市での増加率が高く、24年5月末時点で23万7062人と徐々に増え続けている。

運転手を取り合う運輸業界の中で、なぜタクシー事業者の採用は進むのか。理由の一つにトラック運転手の時間外労働が年960時間に制限される「2024年問題」がある。トラックやバスの運転手の収入は時間外労働の比率が高い。月間給与に占める残業代の割合は大型トラックが20%、バスが24%でタクシーの14%を上回る。残業規制による収入減を懸念するトラック運転手は少なくない。

一方、タクシーは売上高の6割ほどが運転手の取り分とされ、収入に占める歩合の割合が多い。加えて東京23区で22年11月に約14%の運賃値上げを実施しており給与アップも期待できる。

日の丸交通(東京・文京)の富田和孝社長は「今までバスやトラックに年収で負けていたが、24年問題が表面化した後は給与面でタクシーに優位性がある。若い運転手にも『自分の時間を確保しやすい職業』として認知されつつある」と説明する。特に東京のタクシー運転手の平均年収は約585万円で全産業と比較しても高い。

大手タクシー事業者の間では、採用強化は「日本版ライドシェア」の解禁が影響しているとの声も聞かれる。タクシー業界は、2種免許を持たない一般ドライバーが自家用車で乗客を送迎する旅客運行を「白タク行為だ」と主張し、安全の懸念から反対する姿勢をとってきた。

タクシー事業者の管理下での日本版ライドシェアが今春から始まることが決まると、東京ハイヤー・タクシー協会などの業界団体は運転手の採用を迅速に進めるようタクシー各社に呼びかけた。背景にはタクシーの配車を充実させてライドシェアの規制緩和を押し止めたいとの思惑がある。

もっとも採用増の先には業界が抱える課題が控える。離職の防止だ。運転手の平均勤続年数はタクシーが10.7年。トラックの13.2年、バスの14年と比べ短い。平均年齢もタクシーは60.4歳と全産業労働者の44.6歳と比べ高齢化している。雇用に掛かるコストも重荷となり、国際自動車によると1人の運転手を採用して一人前に育てるには約200万円が必要だという。

交通機関別の輸送人員割合でタクシーは4%だが、近年はインバウンドや高齢者の送迎で重要度が高まっている。タクシー業界は従業員数が100人未満の中小零細事業者が9割以上だ。大手は運輸局から割り当てられる車両台数に制限があるため、一定程度まで人員確保が進むと採用の手を緩めざるを得ない。

残業時間の制限を受けて、より稼げる運転職を求める運転手と、人手が足りない事業者の利害が一致する今こそ、交通インフラにおけるタクシーの役割を再考する好機といえる。 

(鷲田智憲)

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