経済大国の米国で、ホームレスの増加が大きな問題になっている。格差の拡大や住宅費の高騰、薬物・アルコール依存症など、米社会が抱える課題が背景にある。11月の大統領選に向けて共和党のトランプ前大統領は民主党政権の「失政」だとの批判を強めており、ホームレスへの対応が有権者の投票行動に影響する可能性がある。(アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで、鈴木龍司)

◆ロス中心部に5000人、「必要なケア受けていない」

アメリカ・ロサンゼルスの「スキッド・ロウ」地区で7月、テントが立ち並び、ごみが散乱した通りを歩くホームレスら(鈴木龍司撮影)

 オフィスビルや高級マンションが立ち並ぶロサンゼルス中心部から歩いて10分。7月、全米最大のスラム街「スキッド・ロウ」を訪ねた。11平方キロメートルの地区には約5000人のホームレスが暮らすといわれる。テントが歩道を埋め、路上に散乱したごみが腐敗臭を放つ。殺人や強盗、薬物絡みの事件も多く、足を踏み入れる一般人は少ない。  「地区の状況は悪化している」。食料や衣服を配るボランティア団体のマーベラス・ハリスさん(67)は「家を持てず、ここに来て薬物や酒に流れてしまう。必要な精神的ケアを受けられていない」と漏らす。  取材中、路上生活を送る女性(66)が自ら声をかけてきた。「人生のどん底だ」。働いて子どもを育てたが、家族は病死したという。ろれつが回らず、上半身は下着のみ。手押し車に酒の瓶が見えた。地元関係者によると、同州で合法のマリフアナ(大麻)や違法の覚醒剤もまん延。特有の刺激臭が漂い、奇声を上げる住民が目に付いた。

◆全米で65万人、コロナでの支援消え物価高で拍車

 全米のホームレスは昨年、保護施設に入った人を含めて65万人に達し、統計のある2007年以降で最多を更新。カリフォルニア州は3割弱の18万人に上った。新型コロナの収束後の景気回復で住宅価格が急上昇し、家を持てない低所得者層が増加。コロナ対策の支援の打ち切りや記録的な物価高も拍車をかけた。  ホームレスに対しては厳しい視線が注がれている。ロスで会社を経営する女性は「街はホームレスであふれ、怖くて歩けない」と不満を語る。  西部オレゴン州の自治体は路上生活禁止の法令を定め、今年6月に保守派の判事が多数派を占める連邦最高裁もこれを容認した。民主党政権が力を入れる低所得者向け住宅の整備は道半ばで、7月末には民主党が強いカリフォルニア州も、テントの撤去に向けた知事令の発令に踏み切った。

◆移民問題もからめ、ハリス氏を揺さぶり…大統領選の争点に

アメリカ・ロサンゼルスの「スキッド・ロウ」地区で7月、支援団体から衣服の配給を受けるホームレスら(鈴木龍司撮影)

 大統領返り咲きを狙うトランプ氏は現政権のホームレス対策が成果を上げていないと批判し、民主党候補のハリス副大統領を揺さぶる。トランプ氏は「ホームレスを一網打尽にして収容所で治療を受けさせる」と主張。メキシコ系の不法移民が麻薬と犯罪を国内に持ち込んでいるとの持論も展開し、移民保護の予算をホームレスになった退役軍人の支援に回すことなどを公約に掲げる。  カリフォルニア大ロサンゼルス校のクリス・ヘリング助教は、強制力を伴う対策に人権上の懸念を示し「短期的な措置に過ぎない」と効果を疑問視。「安価な住宅供給を政府がさらに支援し、ホームレス化を防ぐことが重要だ」と説く。「この問題は政治的に脚光を浴びており、間違いなく米国の主要課題だ」と大統領選の争点になると見通した。 

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